お知らせ

2018.6.7

法務情報

世界は不要な情報を「削除」する方向へ進む

2018年5月25日、欧州データ保護規則「GDPR」(general data protectionregulation)が施行され、大きなニュースとなっています。
そこで、最近の情報保護法についての方向性について再度確認しておきたいと思います。いくつかポイントがありますが、一つのポイントは、世の中にある不要な情報を削除していこう、という方向で法改正が進んでいるということです。

 

有名な最高裁決定(2017年1月31日決定)があります。

この裁判は、「ある人が児童買春で罰金刑を受けた。そのことが実名でグーグル検索すると検索結果に表示されてしまうために、その表示がなされないようその削除を求めた」というものです。

一審は、削除を認め、高裁は削除を否定。その中で「忘れられる権利」について触れられたため、日本でも「忘れられる権利」についての議論が沸き起こりました。最高裁では削除について、「忘れられる権利」そのものには言及されることはなく、「本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」という理由で、削除は否定されました。

日本人の一般的な法感情からすると、児童買春という犯罪を犯しておきながら、わずか数年で削除してほしいなどというのは虫が良い、と思うのが一般的なのかもしれません。この判決も、妥当と評価される方が一般的ではないでしょうか。

ただ、一方で情報先進国のヨーロッパのデータ指令ではむしろ犯罪の刑期を終えたのちに、一定期間が経過すると、その情報が検索結果などで表示されなくなることの方が、むしろ一般的なようです。一昨年にエストニア法務局に視察したときにもそのような説明を受け、ヨーロッパと日本での個人情報やプライバシーに関する意識の違いを感じたものです。

【参考】
当該事実の性質及び内容,当該URL等が提供されることによって当該事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断し,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,上記の者は,上記事業者に対し,当該URL等を検索結果から削除
(平成29年1月31日最高裁決定、裁判所HPより引用)

さて、長々と「忘れられる権利」についての話を記載しましたが、何が言いたいかというと、近年は、情報を削除する方向で法改正等が進んでいるということです。

これまで文明は、いかにして情報を保存維持するか、幅広く伝達できるか、という観点で進んできたものですが、コンピュータ、インターネットの発展により、今度は、いかに情報流通を制限するか、削除するかという方向性で世の中が進んでいるということです。

 

例えば、2017年5月施行の個人情報保護法では、努力義務ではありますが、それまで存在していなかった「必要のなくなった個人情報の削除義務」(努力義務)が加わりました。

 

(データ内容の正確性の確保等)

第十九条 個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは、当該個人データを遅滞なく消去するよう努めなければならない。

 

2016年のマイナンバー法では必要のなくなった特定個人情報に削除義務が課されました。

 

(収集等の制限)

第二十条 何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。

 

最近では、観光庁が、旅行会社向けに必要のなくなった個人情報について、削除するガイドラインを作成する方向です。

 

観光庁は旅行会社向けに、個人情報の漏洩防止策についての指針を作る。顧客のパスポートやクレジットカードの番号などの個人情報を旅行後に早期に削除することや、個人情報を扱う端末のセキュリティー強化を盛り込む。3月をめどにまとめて公表し、社内規定や具体的な防止体制づくりにつなげてもらう。(日本経済新聞電子版より引用)

 

今年制定された欧州データ保護規則GDPRでは、もちろん、必要のなくなった個人情報について削除しなければならない、との規定が組み込まれています。

 

このように最近の情報保護法性の傾向は、「情報をいかに削除するか」ということがテーマとなっており、コンプライアンスの面からこれを言い換えると「必要のなくなった個人情報を問題意識なく保存し続け、結果漏洩した場合には責任が生じる可能性がある」といいうる状況になってきました。この傾向は一つ把握しておいた方がよいポイントだと思います。

 

弁護士:大橋

ご相談を
お急ぎの方へ