<中小企業の海外展開>海外展開のイントロダクション(その1)では、NDA(秘密保持契約)締結の3つのポイントのうち、2つをご説明しました。
今回はその続きとなります。
NDA(秘密保持契約)の締結のポイント(3)情報授受のプランニング
ア 秘密情報の定義
NDA締結交渉において、特に担当者の方が意識すべきなのは、自社が希望する情報の授受方法を明確にすることができれば、おのずと記載すべき条項や交渉態度が明らかになるという点です。
これは各社の運用もあるところではありますが、例えば、社内で秘密文書管理規程などにより、社内文書に「極秘」「秘密情報」「confidential」などの印字がされているようであれば、秘密情報については、「秘密である旨明示したもの」などと簡明に定義することが容易になります。
他方、このような印字がない場合は、秘密情報の定義や管理に関する条項が複雑になり、NDA締結後にこれを履行する際の事務負担も大きくなる可能性があるので注意が必要です。
Any information that is marked or otherwise identified in writing by a Party a s “confidential” or that a reasonable person should understand is confidential.
(訳:(秘密情報の定義)一方当事者から秘密である旨示され若しくは書面により秘密である旨識別される一切の情報又は通常人の理解において秘密と理解されるべき情報をいう。
イ 自社秘密情報の保護
自社の文書管理のIT化がどの程度進んでいるかにもよりますが、現代のIT技術からすれば、アプリケーションを利用して、印刷禁止設定、自動消去設定や閲覧期間の指定、閲覧回数の指定なども可能です。
自社のこうしたIT技術上の可能性を把握することで、運用面の効率化や契約条項の検討に役立つことも少なくありません。
例えば、複製禁止条項を置くかどうかは、このような印刷禁止設定等の自衛手段を講じることができるかどうかで判断するなどです。
他にも、契約期間終了後は閲覧禁止措置を講じることや、閲覧回数設定を行っていくことで過剰な情報利用が疑われる行為を探知することもできます。
これらの措置はPDFファイルであれば市販のソフトウェアなどを使って容易に加工できます。
海外との情報交換においてはこのような自衛措置を講じておくことが重要です。
最後に、海外展開をよりコントロールしていくために、MOU/LOIの活用を説明したいと思います。
MOUとは、Memorandum of Understandingの略で、「了解覚書」などと訳されます。
また、LOIとは、Letter ofIntentの略で、「基本合意書」などと訳されます。
これらの文書は、現在の共通認識事項の確認や、今後の交渉過程を整序することを目的とするものです。
注意点としては、MOUもLOIも一般に法的拘束力を持たないと説明されますが、タイトルからそのように判断するのではなく、法的拘束力の有無は記載内容によって決するという点です。
MOUやLOIでは、当事者の最終的な目標として何を設定するのか、そのためにどのような契約をどれぐらいの期間を想定しながら検討するのかといったスケジュールを添付する手法などが考えられます。
コミットメントを強めたい場合は、特定期間中の独占交渉義務を記載することも考えられるでしょうし、その場合は法的拘束力が認められることが多いと考えられます。
あくまで、取引の最終目標の確認とそこに至るまでのスケジュールを共有するための書面であることが多いのですが、その記載文言によっては法的拘束力が生じる注意点もあるということを指摘して、この回を終えたいと思います。
<初出:顧問先向け情報紙「コモンズ通心」2018年10月号(vol.225)>
*本記事は2018年9月執筆時での法令に基づいており、現在の法律やその後の裁判例などで解釈が異なる可能性があります。
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