中長期に及ぶ家賃滞納が生じた場合は、建物明渡訴訟がどうしても視野に入ってしまいます。
他方で強制執行費用などを考えると、費用面での採算も心配です。
このような場合のモデル的な解決事例をご紹介します。
建物明渡訴訟提起が相当(滞納3か月~)の場合の解決モデルケースですが、建物明渡訴訟を提起しつつ、訴訟外や訴訟上の和解交渉を試みる手法があります。
これは、建物明渡訴訟がいわばベースラインを作り、交渉の場でベースラインを上回る条件を獲得していく方法になります。
交渉学などで、BATNA(Best Alternative to Negotiated Agreement)などの考え方が用いられたりしますが、そのような考えに通じるところもあります。
実際にこのような手法を用いた例を紹介しますと、一つは建物明渡請求と未払賃料の請求を行っている事案で、いわゆる居座りのようなケースでした。
ここでは、裁判上では請求認容の判決を取得する手続を粛々と進め、他方で、強制執行費用等が生じる前に、相手方に任意の明渡しを行うよう交渉を持ち掛けていました。
その結果、無事任意明渡しを先行させることができました。
最悪の場合に備えて、強制執行への手続を進めながら、裁判手続の長期化や居座りによる毎月の損失を、新たな客付けによる収益化へと転換できた事例です。
もう一つは、強制執行手続の申立てを行い、断行日前を交渉期限として設定し、交渉を進めていった事案です。
こちらは、強制執行(断行)というベースラインを設定することで、判断基準の明確性(強制執行を上回る好条件が提示されるかどうか)をもちつつ、場合によっては、断行費用を支出することなく、好条件で事件をまとめることができるという方針を採ったものになります。
こちらの事案では、強制執行を実際に行った場合よりもはるかに好条件での和解を行うことができました。